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(当ブログは、2024 年 9月6日にSodali & Coが発表した英文ブログの日本語訳です。)
急速に変化する今日の金融状況の中で、サステナビリティが投資家行動の中心的な原動力となってきました。上場企業は、サステナビリティが自社の主要投資家の意思決定にどのような影響を与えているか、深く理解する必要があります。その知識が、長期的な投資を確保し、競争力を維持するために非常に重要だからです。
サステナブル投資へのシフトは、投資家が環境・社会・ガバナンス(ESG)要因を重視するようになってきた背景にある、より広範な社会の変化を反映しています。本稿では、この変化の把握が企業に不可欠な理由を示し、また過去と現在の投資家の動向を比較し、サステナビリティ課題に基づくダイベストメント(投資撤退)とエンゲージメントの両方の事例を紹介します。
従来、投資家は主に、売上高成長、収益性、リスク管理などの財務パフォーマンス指標を重視していました。しかしここ10年以上の間に、サステナビリティを投資判断に取り入れる方向に大きくシフトしてきています。この変化の背景には、いくつかの要因があります:
- 気候リスクに対する認識の高まり: 気候変動がビジネスにおける重要なリスクであるとの認識が広まり、投資家はサステナビリティ課題に対する透明性の向上と行動を求めるようになりました。このようなリスクへの対応を怠る企業は、長期的な 投資対象として見られなくなってきています。
- 政策の変化と規制の圧力: 世界中の政府が、より厳しい環境規制とサステナビリティ開示規制を導入するようになってきました(CSRDが情報開示にどのような影響を与えているか、思い起こしてみましょう!)。
- 消費者と社会的アクティビズム: 消費者の嗜好がサステナブルな製品やサービスにシフトする、という動きも時に見られるようになってきました。また、環境や社会正義を主張する社会運動も、企業に対してよりサステナブルな取り組みをするよう圧力をかけています。投資家は、このような動きに応える企業をポートフォリオに組み入れることで対応しています。
- 長期的価値創造: 投資家は、サステナビリティがリスク軽減だけでなく、価値創造にもつながる、と認識するようになってきました。二酸化炭素排出量の削減、労働環境の改善、ダイバーシティの推進など、サステナビリティに取り組む企業は、長期的な成功を達成する上でより有利な立場にあると考えられています。
サステナビリティは、以前は投資判断において考慮されるとしても、二次的な関心事と見なされることがよくありました。主に財務的リターンに焦点が当てられており、企業活動が環境や社会に与える長期的な影響については、ほとんど考慮されていなかったのです。ESG要因は、(サステナビリティ全体を考えればビジネスチャンスも含まれる可能性があるにもかかわらず)主にリスクを表すものと捉えられてほぼ無視され、サステナビリティの実績が乏しくても財務実績が高い企業は、依然として多額の投資を集めることができました。
今日、状況は変わり始めています。ESG指標は、全体的にはまだ完全に成熟しているわけではないものの、概ね成熟してきており、かつては「あればいい」という程度の情報であったESG指標への依存度が高まってきています。多くの投資家が、従来の財務指標と並行して、より洗練された指標・データを得られるようになったESG指標を考慮するようになってきました。いろいろな意味で、ESG基準は投資分析に不可欠なものとなったと言えるでしょう。投資家は、企業がサステナビリティ・パフォーマンスを開示するだけでなく、野心的なESG目標の設定と達成を求めるようになっています。
このような変化は、「ESGパフォーマンスが高い企業は長期的に同業他社をアウトパフォームする傾向がある」という証拠が増えてきたことに後押しされています。研究によれば、そのような企業はリスク管理、人材の獲得・維持、顧客ロイヤルティ の強化に優れています。その結果、投資家は今、サステナビリティ課題について企業とエンゲージメントを行い、ESGパフォーマンスに対する説明責任を企業に求めることに積極的になっているのです。
新しい情報は新しい力を生み出します・・・実際のところ、投資家行動の重要な原動力として高まるサステナビリティへの関心は、ESGパフォーマンスの低い企業からのダイベストメントと、サステナビリティへの取り組みを改善するための企業への積極的なエンゲージメントという、二つの動きにつながっています。
ダイベストメント(投資撤退・売却):
最も強力な戦略の一つがダイベストメントです。ダイベストメントの顕著な例は、化石燃料からのダイベストメントを求める世界的な動きです。年金基金、大学基金、宗教団体を含む数多くの機関投資家が、過去10年以上、化石燃料の採掘・生産に関わる企業からのダイベストメントに取り組んできました。
このトレンドは、再生可能エネルギーへの移行が進む世界の中で、化石燃料産業が長期的に生き残れるのか、という懸念が背景にあります。例えば、世界最大級のノルウェーの政府系ファンドは2019年に、石炭生産関連を主力事業とする企業のダイベストメントを発表しました。この決定は、石炭が重大な財務リスクと風評リスクをもたらすという認識に基づいています。
別の例として、森林破壊に関与する企業からのダイベストメントがあります。2020年に、世界最大の資産運用会社であるブラックロックが、サプライチェーンにおける森林破壊に十分な対策を講じていない企業からのダイベストメントを発表しました。この動きは、森林破壊が環境や社会に与える影響や、サステナブルでない土地利用に伴う財務リスクに対する懸念の高まりを反映したものです。
エンゲージメント:
ダイベストメントは確かに強力な手段ですが、同時に一回きりの行動でもあります。一旦テーブルを離れれば、あなたの声はもう届きません。なので代わりに、ダイベストメントではなく、サステナビリティ課題に関して企業とのエンゲージメントを選択している投資家も少なくありません。このアプローチは、対話、株主議決権行使、株主提案などを通じて、ESGパフォーマンス改善のために企業と積極的に協力する方法です。
サステナブルな未来に向けて努力する投資家、NGO、企業の間では、舞台裏で多くのエンゲージメントが行われています。協調的な取り組みを通じて、投資家は企業をよりサステナブルな方向に向かわせることに成功しています。あるセクター特有の懸念トピックや、特定の投資家が特に関心を抱いているトピックも、エンゲージメントのテーブルにのり、生産的な方法で取り組むことができます。長く困難な道のりかもしれませんが、最終的にはより多くのステークホルダーを結びつける方法なのです。
まとめ
サステナビリティの投資家行動に対する影響力を理解することは、長期的な投資の確保と競争力の維持を目指す上場企業にとって、極めて重要です。サステナブル投資へのシフトは、より広範な社会の変化を反映しており、投資判断においてESG要因が果たす役割がますます大きくなっているからです。
このトレンドを認識・対応できない企業は、主要投資家のサポートを失うリスクがあります。一方、サステナビリティ課題に積極的に取り組む企業は、長期的な投資を呼び込み、持続的な成功を収める上で有利な立場にあるのです。
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