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日本における食品ロスへの取り組み

2024年 6月 05日

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(当ブログは、2024 年 6月 5日にモロー・ソダリが発表した英文ブログの日本語訳です。)

新型コロナ・パンデミックの後、日本の観光業は回復し、多くの人々がこの素晴らしい国を訪れ、その観光名所、人々、文化、そしてなにより料理を楽しむようになりました。日本はその優れた料理と文化遺産で有名な国です。しかし観光客は、日本が食品ロスの管理という大きな課題に直面していることを知らないかもしれません。環境省と農林水産省によると、日本では年間約600万トンの食品ロスが生じています(参考資料1)。サステナビリティと資源効率化に対する世界的な動きを考えると、この数字は憂慮すべきものです。食品ロスへの取り組みは、環境問題だけでなく、経済的・社会的な要請でもあります。この記事では、日本の食品ロス問題に対する取り組み、直面している課題、そしてこの問題をサステナブルな実行モデルに変える可能性のある新たなビジネスチャンスについて掘り下げます。

日本における食品ロスは、生産から流通、小売、消費に至る、サプライチェーンの様々な段階で発生しています。そのかなりの部分は消費段階で発生しており、家庭での買い過ぎ、消費期限・賞味期限の見間違い、不適切な保存などが原因です。レストランやスーパーマーケットも、厳しい品質基準や新鮮な農産物に対する消費者の期待もあり、重要な廃棄者になっています。

国民の意識向上キャンペーンが、日本の戦略の中心にあります。政府は、2025年までに国民の80%が、食品ロス削減のために何らかの行動をすることを目指しています。最近の調査によると、日本はこの目標に近づいており、回答者の約76.7%が食品廃棄に関する認識と行動の両方を報告しています(参考資料2)。消費者の行動が食品ロス全体の発生量に大きく影響するため、こうした取り組みは極めて重要です。

日本政府は食品ロスの重大性を認識し、その対策としていくつかの政策を実施しています。2019年には食品ロス削減推進法が制定され、2030年までに食品ロスを半減させることを目指しています。この法律は、地方公共団体に食品ロス削減推進計画の策定・実施を求め、企業に余剰食品の寄付を奨励し、消費者の意識向上を促しています。

食品ロス削減に取り組む上で、テクノロジーが極めて重要な役割を果たしています。日本では、テクノロジーを駆使したソリューションがいくつか登場し、さまざまな角度からこの問題に取り組んでいます。TABETEKuradashi(認定Bコープ)のようなフード・シェアリング・アプリは、余剰食品を持つレストランや店舗、食品メーカーと消費者を結びつけ、利用者がその食品を割引価格で購入できるようにすることで、廃棄されることなく確実に消費されるようにしています。時間温度インジケーターなどの包装テクノロジーの革新は、食品の鮮度監視に役立ち、恣意的な消費期限に基づく早すぎる廃棄の可能性を減らします。人工知能やビッグデータ分析も、需要をより正確に予測するために採用されており、小売業者やサプライヤーがそれに応じて在庫を調整し、過剰在庫やその後の廃棄を最小限に抑えることを可能にしています。

ニュースは悪いことばかりではなく、多くの日本企業が食品ロス対策に乗り出しています。イオンやセブン&アイ・ホールディングスのような小売大手は、在庫管理の最適化や、売れ残った食品を慈善団体に寄付するなど、廃棄を減らすための対策を実施しています。キリンビールがビール製造時に出る使用済み穀物を家畜の飼料や肥料に利用するなど、食品メーカーは食品ロスを最小化すべく製造過程を見直しており、(このような活動により)廃棄物が減り、循環型経済創出に繋がっています。私たちは今後、このような取り組みをさらに強化していく必要があります。

このような努力にもかかわらず、課題もいくつか残っています。鮮度と品質に対する日本の消費者の基準は高く、まだ安全に食べられる食品が廃棄されてしまっています。こうした文化的認識を克服するには、大規模な教育と意識向上キャンペーンが必要です。余剰食品の収集、保管、再分配に要するロジスティクスは複雑でコストがかかり、寄付された食品が安全に消費できる状態で必要な人々に確実に届くようにすることは、物流上の課題として残っています。厳格な食品安全関連規制は極めて重要ではあるものの、余剰食品の再配分の妨げになることも無くはありません。食品寄付システムを改善するためには、安全性と柔軟性のバランスをとることが必要です。

日本における食品ロス削減の闘いには、イノベーションとコラボレーションの機会がいくつもあります。官民パートナーシップは、寄付プロセスを合理化し、食品再配分のロジスティクスを改善することができます。食品ロスと消費期限・賞味期限について消費者を啓蒙する努力を続ければ、文化的態度も変わるかもしれません。食品のサステナビリティの重要性と、家庭での廃棄を減らすための実践的なヒントを強調するキャンペーンは、大きな影響力を持つでしょう。高度なデータ分析を活用して食品ロスのパターンをモニターし予測することにより、企業が豊富な情報に基づいて意思決定を行えば、効率的な在庫管理と廃棄の削減が可能になります。バイオ燃料、家畜飼料、その他の付加価値製品への転換など、食品廃棄物を再利用する新たな方法が開発されれば、廃棄物が削減され、また新たな経済機会の創出に繋がります。

食品ロス削減に取り組む日本のアプローチは、政府の政策、技術革新、企業の取り組み、消費者教育を含む多面的なものです。大きな課題が残る一方で、改善の機会は膨大です。革新的なソリューションを開発・実施し続ければ、日本は食品ロスの流れを変え、APAC地域その他の諸外国の模範となることもできるでしょう。

食品ロスはもちろん日本だけの問題ではありません。世界食糧計画(WFP)の優れた記事(参考資料3)によれば、生産されながら食べられることのなかった食糧は全体で、20億人を養うのに十分な量になるといいます。これは世界中の栄養不足の人々の数の2倍以上です。さらに、廃棄された食品をひとつの国としたら、米国と中国に次ぐ世界第3位の二酸化炭素排出国になるそうです。つまり、食品ロスへの配慮は、サステナブルな未来への支援を示す素晴らしい方法なのです。 食品ロス削減へのさらなる取り組みは、2030年までに食品ロス削減を半減させるという、国連の持続可能な開発目標(SDGs)にも合致します。日本がこの複雑な問題に取り組み続ければ、サステナブルで公平な食料システム構築の可能性はますます高るでしょう。

参考資料

1.我が国の食品ロスの発生量の推計値(令和元年度)の公表について|プレスリリース|環境省

2.Food waste reduction: Japan believes it is ‘close’ to achieving awareness and action goals – government data(foodnavigator-asia.com)

3.5 facts about food waste and hunger|世界食糧計画(wfp.org)

原文はこちら

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