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(当ブログは、2025 年 4月22日にSodali & Coが発表した英文ブログの日本語訳です。)
2025年に入り、グローバル貿易と企業の経営をとりまく環境は目まぐるしく変化し、企業とそのステークホルダーは前例のない不確実な状況に直面しています。
このような変化にもかかわらず、企業におけるサステナビリティ戦略とESG関連課題への取り組みは依然として不可欠です。2024年も未曾有の自然災害に見舞われ、更に今年1月の米国南カリフォルニアでの山火事など、「気候変動リスク=本質的な事業リスク」であることがより明確になりました。投資家は、ポートフォリオ全体における気候変動への「レジリエンス(回復力)」と「アダプテーション(適応)」を注視し続け、投資先企業への積極的なエンゲージメントを通じて、引き続きこれらのリスクを徹底的に理解するよう努めています。
サステナビリティ情報開示規制は修正されたとしても、なくなることはない
昨今のグローバルおよび地域レベルのサステナビリティ情報開示における規制は今後も進化し、企業規模や株式所有構造を問わず、あらゆる企業は引き続きその対応を迫られています。以下は、主な基準と規制動向の要約です:
- カリフォルニア州の気候開示法を筆頭に、米国の複数の州では、州内において事業活動をおこなう大手企業に対し、温室効果ガス(以下、GHG)排出量の算定と報告が義務化されつつあります。また、規制の対象外である中小企業においても、GHG排出量の集計システムの開発や、事業全体における気候変動リスク評価を実施することがベストプラクティスとなっています。規制対象になってからの対応ではなく、このような先手を打ったアプローチは、将来のリスク回避に不可欠です。
- 企業サステナビリティ報告指令(CSRD)は、EU圏内で事業活動を行う企業を対象とした包括的な情報開示ルールを定めています。今年に発表された改正案には、一部の企業に対する2年間の猶予、報告対象企業の範囲の縮小、欧州サステナビリティ報告基準(ESRS)の改訂が含まれています。EU域外の多くの企業も、この猶予期間を利用して対応準備を進めています。
- 上述のCSRDとは別に、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)の開示基準は世界的な広がりをみせており、現在、30カ国以上において枠組みの採用、またはその検討がなされています。ISSB開示基準は、資本市場のためのグローバルなベースラインを設定し、全ての報告主体の自主的開示の手引きとなっています。
- オーストラリアでは気候関連財務情報開示(AASB S2)の段階的な義務化が今年から始まりますが、これはISSB準拠基準を国内枠組みに統合した事例の一つです。この規制では、大企業と金融機関に対し、気候関連リスクと機会の開示、具体的にはガバナンスとリスク管理の方法、気候変動の潜在的な財務的影響、低炭素経済への移行計画の開示を義務付けています。オーストラリアの事例は、財務報告とサステナビリティ関連の情報開示の統合がグローバルで進んでいることを示しており、進化する規制への早期対応準備の必要性が理解できます。
上述の規制は、サステナビリティ関連情報開示と財務報告のより緊密な連携を示しています。規制要件と事業との整合性を確保し、リスクを軽減し、機会を逃さないために、このような規制動向を事業戦略に織り込むことが企業にはますます求められています。
ステークホルダーの声を聞く:求められる優先事項を理解しているか?
規制の変化に対応すると同時に、企業はサステナビリティ関連情報の開示が、株主およびステークホルダーの求める情報であるように努める必要があります。「リスニングツアー」を実施して企業の主要なステークホルダーを特定することは、サステナビリティ規制に対するステークホルダーの関心事項を把握・理解する為の効率的な方法の一例です。
サステナビリティ関連の取り組みに関するステークホルダーとのオープンな対話から得られる洞察は、サステナビリティ戦略におけるあらゆる側面の強化・精微化に活用され、また事業全体の戦略に反映させることができます。サステナビリティ戦略とそれに向けたコミットメントを見直す際には、企業がその目的と事業環境との結びつきを明確にし、透明性をもって説明することがステークホルダーとの信頼関係を維持する為に重要です。
サステナビリティには「長期的な目標」と「短期的なリソース」のバランスが必要
サステナビリティ戦略において、株主の期待と持続可能な成長のバランスをとることは重要です。環境および社会課題におけるリスクと機会は明確に説明され、測定されなければなりません。
サステナビリティは本質的に長期的な取り組みですが、エネルギー効率向上や廃棄物削減への投資など、即時の財務的利益をもたらす「クイックウィン」を追求することも重要です。サステナビリティの優先事項を事業目標とリンクさせたロードマップの策定は、投資の意義・価値を経営陣に示すための有効な手段です。マクロトレンド、事業環境、ステークホルダーの期待など、様々な変化を反映させるべく、ロードマップの定期的な見直しが推奨されます。長期的な脱炭素化戦略の策定か、短期的な循環型経済のパイロットプログラム実施かに関わらず、これらの優先事項を既存の事業目標と一致させプロセスに統合することが、サステナビリティ戦略の達成において最も効果的なアプローチです。サステナビリティと事業を別々に考えるる従来のアプローチは、もはや現実的ではありません。
サステナビリティ方針を堅持し、その価値を伝える
政治情勢に関わらず、サステナビリティ分野における当社のお客様への助言は一貫しています。即ち「自社のビジネス環境、投資家や主要ステークホルダーの期待、規制遵守の対応準備状況に従って、自社に合った独自のサステナビリティ戦略の策定と情報開示を行うべき」ということです。
2025年中には、中核的ビジネス戦略や財務パフォーマンスとの明確な関連性のない、表面的なサステナビリティ戦略やコミットメント、またそれに関するコミュニケーションへの風当たりはますます厳しくなるでしょう。逆にいえば、ステークホルダーの強い支持を追い風に、より焦点を絞り、財務的観点を考慮したサステナビリティ戦略の価値が高まり、それを伝える機会が生まれている、ともいえるのです。
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